学士号の規定
かなり理屈っぽい話をします。ですがこれは、みなさんの将来に関わるとても大切なことです。
そもそも「大学卒業の資格」とはなんのことでしょうか? 大卒資格とは正式には「学士号」と言います。「大学卒業の資格を持っている」というのは、「学士号を持っている」ことです。
では「学士号」は誰がくれるのでしょうか? そのことは「学校教育法」という法律で決められています。
- 《学校教育法 第104条》
- 大学は、文部科学大臣の定めるところにより、大学を卒業したものに対し学士の学位を授与するものとする。
学士号、つまり、大学の卒業資格は「大学」が与える、ということです。では、「大学」とはなんでしょうか? これも学校教育法で定められています。
- 《学校教育法 第1条》
- 学校とは、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする。
大学卒業資格を与えることができる「大学」とは、「学校」の一種だということです。さらに、その「学校」についてはこう決められています。
- 《学校教育法 第2条》
- 学校は、国、地方公共団体及び学校法人のみが、これを設置することができる。
国というのはもちろん日本国のことです。地方公共団体は日本の自治体などです。中国の自治体のことではありません。
そして「学校法人」については、「私立学校法」という法律で、「大学を設置する学校法人は文部科学大臣が所轄する」と決められています。もちろん、「日本の」文部科学大臣です。
日本の法律上では大卒にならない
つまり、こういうことです。
- 日本国が認める「大学卒業資格」は、
- 日本国、日本の地方公共団体、学校法人が設置した大学だけが、
- 授与することができる。
中国の大学は、日本国や日本の地方自治体、学校法人が設置した大学ではありません。したがって、「中国の大学で取った大学卒業資格」は、「日本国が認める大学卒業資格ではない」ということになります。
つまり、「中国で取った大学卒業資格は、日本では法的に認められない」ということです。
もっとストレートに言うと、「高校卒業後に中国の大学に進学して卒業しても、日本の法律の上では最終学歴は高卒」ということです。
日本の多くの留学業者が、このことを積極的には伝えていません。ですがこれは、日本の法律で定められた、まぎれもない事実です。
就職に与える影響は小さい
みなさんが「大学卒業資格」にこだわるのは、言うまでもなく就職を考えてのことでしょう。ではこのことが日本での就職に影響するかというと、実は大きくは影響しません。
現在では日本の多くの民間企業が、海外の大学を卒業したことと、日本の大学を卒業したことを、同等と見なしています。中国で取った大学卒業資格を、日本の大学卒業資格と同等に扱う、ということです。
ですので、民間企業の採用条件で「大学卒業」と書かれていた場合、中国の大学を卒業した人も、日本の大学を卒業した人と同じように、その企業に応募することができます。
公務員では影響が出る場合がある
しかし、影響がまったくないというわけではありません。公務員になろうとした場合に影響が出ることがあります。
下に挙げたのは、国家公務員採用試験の受験資格です。
- (ア) 大学を卒業した者及び大学を卒業する見込みの者
- (イ) 人事院が(ア)に掲げる者と同等の資格があると認める者
人事院が中国の大学卒業者を日本の大学卒業者と同等だと認めれば、問題なく受験することができます。
次は、大阪府職員の受験資格です。
- イ 学校教育法に基づく大学を卒業した人、又はこれと同等の資格があると人事委員会が認める人
こちらでも、人事委員会が認めれば問題はありません。
近年、海外の大学を卒業する人が増えてきたことをうけて、こういった補足規定が追加されるようになってきました。これらの補足規定は海外の大卒者を想定したものですので、人事院や人事委員会が日本の大卒と「同等」と認めないということはまずありません。
問題は、これらの補足規定が「書かれていない場合」はどうなるか、ということです。役所が法律を破ることはできません。つまり、「受験資格はない」ということになります。
正確な情報を集めよう
そうは言いつつ、現実問題としては、大半の企業、自治体が海外の大卒者も日本の大卒者と同等に扱っています。ですので、就職活動をするときに問題が出ることは、現実的にはほとんどありません。
ですがもしあなたが、将来は地元で公務員になりたいと思っているとしたら、上に書いてきたような事実を知った今、あなたはどうしますか? 中国の大学を卒業しても受験できるか、留学を決める前に役場に確認するのではないでしょうか? ダメって言われたら留学を考え直すかもしれないですよね。
留学は自身の将来にいろんな意味で大きく影響します。それゆえに、正確な情報をしっかりと集め、間違いのない対応ができるように心がけてください。